BTS(防弾少年団)英語→日本語 翻訳の部屋

「防弾少年団」(BTS)が取り上げられた英語媒体の記事やニュースをファンが和訳して載せているブログ。翻訳には意訳部分も多くなりますのでご了承ください。

BTSのシングル'On'と'Black Swan'の共同制作者August Rigoのインタビュー

2020年4月5日にForbesに公開されたHugh McIntyre氏の記事を和訳しました。

 

↓オリジナルの記事(英語)↓

www.forbes.com

 

 


BTSのシングル'On'と'Black Swan'の共同制作者August Rigoのインタビュー

 

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BTSに曲を提供しその曲が実際に録音されるということは、音楽家にとっては高額の報酬の確約だけでなく、大きなブレイクポイントとなり得る。BTSの人気はすさまじく、彼らがリリースした楽曲にはもれなく非常に高いストリーミング数と売上がついてくるため、彼らとつながりを持つこと自体が音楽家のキャリアに多くの機会をもたらしてくれるのだ。 

 

August RigoがBTSに提供したのは1曲だけではなく2曲。しかも2曲とも、彼らの最新アルバムMap of the Soul: 7からシングルとしてリリースされた。Rigoはアルバム公開前にリリースされた"Black Swan"とアルバムのリードシングルとしてリリースされた"On"の2曲を共同プロデュースした音楽家だ。 

 

シングル 1曲でも大変なことだが、シングル2曲となると音楽家としてはこれ以上望むものはない。提供相手がBTSとなるとなおさらだ。

二曲の制作について、Big Hitとの仕事について、また自分の曲が世界最大規模のシングルとしてリリースされると知った時のことについて、August Rigo氏から話を聞いた。



McIntyre(記者):まず最初に、"On"はこのアルバムでの私のお気に入り曲のひとつです。

Rigo: ありがとうございます。

McIntyre: "On"がアルバムに収録されると知ったのはいつですか?また、それがシングルとしての扱いになると知ったのは?

Rigo: そうですね…アルバムに収録されるかもしれないことを知ったのはたぶん11月か12月のことだったと思います。印税分配の割合を決めて権利周りの整理をしました。通常こうした手続きが発生するのは、楽曲がアルバムに入るといういいサインなんです。

最初のシングルはアルバム発売に先駆けてリリースされた"Black Swan"でした。あの曲が最初のシングルカットになるとは知りませんでした。権利関係の手続きを行ってはいましたが、自分の曲がシングルカットされたと知ったのは本当に他の皆と同じタイミングでした。リリースされてから、「わあ、シングルだ。すごい」って。その後僕たちがした会話はこんな感じでした。「もし'On'が次のシングルだったらものすごいことになると思わない?」って。そしてある朝目覚めたら本当に、"On"が次のシングル曲だったんです。それぐらい秘密裏に進められていました。

 

McIntyre: ということは、自分の曲がメイントラックとして使われることを、世界中が知るまで知らなかったってことですか?

Rigo: そういうことです。

McIntyre: ワオ

Rigo: まあ正直、もう一人僕の友人でライターがいるんですけど、メラニー・フォンタナっていう。彼女も"On"の制作に関わったんですね。彼女から、シングル曲もあり得るとは聞いていました。でもどうしても僕たちソングライターとしての希望的観測も混じるし、願いをあらかじめ宇宙に宣言するみたいな。なので実際にリリースされるまで本当にわからないんですよ。

McIntyre: "Black Swan"も"On"も素晴らしい売上を残しました。ファンからも愛されていますし、ミュージックビデオもとんでもないですね。

Rigo: 本当に素晴らしいですよね。 

McIntyre: 特に2つ目のミュージックビデオには莫大な予算がかけられていましたね。

Rigo: いや本当に。最近の音楽業界だともうやらないですよ。自分の楽曲のMVにあそこまでのお金をかけるアーティストって本当に限られていて、超ビッグなアーティストだけですね。

McIntyre: あそこまでやるアーティストは少ないですよね。

Rigo: 全体的に、MVにあそこまでお金をかけないです。でも彼らは違う。彼らのつくるビジュアルは超一流。異次元です。 

 

McIntyre: 自分がつくった曲を全世界が一気に聞いて、MVを見て、それについて語っている様子を目撃するというのはどんな感じですか?

Rigo: 正直いうと少し圧倒されました。僕自身がアーティストで仲間のミュージシャンと一緒にいつも音楽をやっていますが、こんなにワールドワイドかつユニバーサルなスケールでの現象を目にするのは圧倒的な経験でしたね。

意味がわからないかもしれませんが、どうやって喜んだらいいのかもわからないぐらいでした。BTS Armyは本当に心から応援してくれて…Armyは曲のライターの名前や誰がどう関わっているかも知ってるんですよ。だから自分のソーシャルメディアのタイムラインもいきなり賑やかになった。圧倒的だったけどとてつもなく満足のいく経験でしたね。僕たちが毎日がんばって曲を書いて音楽をつくっているのは、世界中の人たちに聞いてほしいからです。だから自分がつくりあげたものが世界中の注目を浴びるということは、とても嬉しいことで、本当に感謝しています。

 

McIntyre: Siaはどういう経緯でこの曲に関わったのですか?

Rigo: BigHit側が、アメリカでの注目を後押ししてくれるようなフィーチャリング曲をつくりたかったからだと思います。

McIntyre: なるほど。

Rigo: Siaは誰もが認める素晴らしいソングライターです。彼女のトラックや秀逸な歌詞を考えたときに、そのバイブスやブランドが韓国の音楽産業の中でのBTSの立ち位置とマッチしていたのだと思います。"On"のリリックも、Siaが書く歌詞に非常に親和性があると感じます。彼らは共通して、とても比喩的でシンボリックです。そういう意味で彼女は"On"のコラボにぴったりのアーティストだと思います。

 

Hugh McIntyre: ソングライティングの話題に戻りますが、先ほど他の共同ライターの名前も出てきましたが、BTS自身もクレジットされていますよね。どのように共同作業をしたのですか?

Rigo: 作業の大部分がリモートで行われました。僕と僕のビジネスパートナーであるBenjiの運営する会社に、BTSのライブ振り付けをやっているBrianというアーティストがいます。彼は素晴らしいアーティストでダンサーなんですが、BTSの人気に火がつき始めた頃、「どうにかしてコンタクトをとって彼らに曲を提供できるかどうかやってみたい」と僕が持ちかけたんです。K-Pop関連の仕事は2013年からやっていて、韓国とこっちを行ったり来たりしつつ、複数のプロデューサーやアーティストと一緒にセッションをしたり作曲をしたりしてきました。なので相性はいいはずだと思ったし、彼らに曲を提供できたら最高だろうなあと常々思っていました。

それで実際に彼らに曲のアイデアを送り始めたんですが、僕たちのバイブスをすごく気に入ってくれて。1年後ぐらいだったかと思います。大量のトラックや歌詞を送り続けていたら彼らから返信があって、「オーギュストの曲のバイブが今準備中の次の曲にすごく合うんだ。やってみないか?」って聞かれて。その後彼らからインストルメンタルのみのトラックが送られてきて、それをベースに自分で曲を作りました。送られてきたのは"Black Swan"と"On"のインストルメンタルで、それをさらに数人のライターに送りました。"Black Swan"についてはライターの一人が作ったひとつのピースがとても気に入ったので、そのピースを拡張して全曲つくりあげました。BigHitにトラックを送り返すと、「OK、このパートは気に入ったよ」みたいなコメントをくれて、彼らが不要だと判断した部分はカットしながら改良していく、というような流れでした。

例えば僕がすでに全曲を書き上げていたとして、彼らは気に入ったパートを選んで切り出し、僕に送り返してきます。で、僕は「彼らが好きなのはこういう感じなんだな。この曲調を広げていこう」と作業してまた彼らに戻すといった具合。だいたい1曲あたり3回か4回の改良のためのやりとりがありました。トラックが返ってくると、誰かが歌う音節とか、誰かのラップが付け加えられていることもあります。僕はトラックの空間を埋めてまた彼らに戻すという流れです。

 

Hugh McIntyre: これまで関わった中でこれが一番ビッグな曲だということになりますか? 

Rigo: 確実にそうですね。これまでJustin BieberのデビューアルバムとOne Directionのデビューアルバム、そしてChris Brownのヒット曲"Back to Sleep"という曲にも関わりましたが、この曲のグローバルなスケールは僕の関わった中では明らかに過去最大です。だって、96ヵ国でしたっけ。それぐらいの国でNo.1を取ったんですよ。実はBillboard Hot 100であんな高順位に上りつめたことも初めてでした。"On"はHot 100で初登場4位でした。なのでそうですね、確かに僕がこれまで関わった中で最大スケールの曲です。

 

McIntyre: この曲はまだまだ売れていますが、この勢いを次に活かすために今どんなことをしていますか? 

Rigo: たくさんの方から連絡をもらっています。作曲の世界というのは、「最近どんな曲をつくった?」というのが全てなんですよ。チャートで高順位に上がった曲をつくったとわかると、みんな耳が変わるみたいなんです。言ってることわかります?みんな突然、「えっ?なるほど。本当に素晴らしい曲だね」って、耳が変わるんです。

 

自分が送りつけた曲に関しても前よりもっと早く連絡が返ってくるようになりました。これまでと同じように引き続きやっていきます。僕はいつもスタジオにいて作曲をし、チームのみんなと作品の内容についてやりとりしています。確かに、自分がやりたい仕事、これまでと違う仕事を選ぶという自由を前より手に入れたかもしれません。クリエーティブな仕事というのは浮き沈みが激しいものです。だからとてもビッグな成果につながる仕事を成し遂げたときは、自分の心の健康にとってもすごく良くて、「そう、僕は正しいことをしているんだ」という気持ちにさせてくれます。 

 

BTSのプロジェクトの一部に関われたことは本当に素晴らしい経験でした。僕自身アジア人として、音楽業界で身を立て始めたときは躍起になっていました。仕事をやめてニューヨークに移り、人々の注目を集めようとレコード会社の前に立ってパフォーマンスをしていました。音楽業界にいるような人を見れば誰にでも自分のCDを配っていましたし、すごく生意気な子供だったと思います。だって誰彼かまわず近づいて「音楽業界にいるの?僕の曲を聞いてみて。最高なんだ」って触れ回っていたんですから。その頃はYoutubeもSoundCloudもない時代で、自分の音楽を聞いてもらうプラットフォームもなかったんです。

なので昔ながらの手作りCDを配るというスタイルでやっていて、ソングライターになろうなんて気は全くありませんでした。アーティストになりたかった。曲を書いてプロデュースしてしましたが、それも単に自分の声をみんなに聞かせたかったからなんです。

その頃はDrakeもいなくて、トロントという街もたいして知られていなかった。今でこそ音楽的なバイブスとテイストの溢れる街として名を知られているトロントですが、当時はそうじゃなかった。だから「君、カナダ出身なんだね。イグルーに住んでるの?」なんて質問を本当に受けていたんですよ。 

 

しかも僕はフィリピン系。売り込みの時はミーティングに参加して自分の音楽を3,4曲聞いてもらうんです。ビッグレーベルの社長に会って音楽を聞いてもらう機会が何度かあったんですが、「この音楽素晴らしいね」と言ったあとに、部屋の中を見渡して「アーティストは誰?」って聞くんですね。でもみんなが僕を指差したあと、会話の流れが変わる。たいていの場合、「どうしたもんかな。君の見た目はちょっと変わってるから」みたいに言われてました。だからそれから10年後に、チャート史上に残るK-popバンドのシングル曲に自分が参加できたことに、ちょっとした詩的な正義のようなものを感じざるを得ないです。

(終)